ナパ奇跡のぶどう畑 第二の人生で世界最高のワイナリーを造りあげた<シェーファー>の軌跡

「ここに書かれていることは、きわめて単純だ。人生のうちの40年をナパヴァレーのワイナリーで過ごした、ひとりの人間のストーリーである。……この本の内容は、もっと個人的なことだ。〈シェーファー・ヴィンヤーズ〉と近隣のワイナリーがこれまで体験してきたこと、醸造所で起きた問題に汗だくで対処してきたこと、最良の品質のぶどうを育てるために学習したこと、経済不況に立ち向かってきたこと、消費者の嗜好の変化を理解してきたこと、さまざまな害虫に打ち勝ってきたこと、自分たちのワイン生産地を進化させるために努力してきたこと、そういったことの体験談なのだ」。本書で綴られるのは極めて私的な物語、創業者ジョンとその息子かつ筆者であるダグによる、あるワイナリーの「ワン・ポイント・ファイブ」世代の成功譚。敏腕の教科書セールスマンからワイン・ビジネスへの転身。そうは言っても、いいものを作っていれば売れる、なんて素人の幸福な思い込みで邁進しました、というような陳腐な啓発書とは一線を画する。「『良書でも語られなければ忘れられる』……もちろん『良書』が『よいワイン』に代わるわけだけれども」。「語られ」るためのマーケティング、立ち上げ間もなく無名のワインを抱えて自ら酒屋を訪ね回る。自社を含んだ地域全体のブランディングは時に法廷に闘いの場を移す。世紀をまたいだワイン・ブーム、社はひとつの岐路に立たされる。「地道に戦いつづけるのか、大流行の波に乗ってしまうのか。これまでのように、販売や宣伝の戦略を検討し、1年のほとんどを出張先で過ごし、取引先や代理店の人間と会って話をし、小売店やレストランをひとつひとつ訪ねて試飲グラスにワインを注ぎ、ワインの説明をし、ワインクラブ向けのダイレクトメールをしたためる生活……もしくは、ひっきりなしに訪問客が押し寄せ、トナー切れになるまでワインの注文ファックスが殺到し、クルマや休暇で買収されたスタッフが裏からわずかな本数のワインを売って大量の現金をもらい、同時にワイン造りのビジョンとかワインの驚異的なすばらしさが絶賛される生活だ」。第三者の手による徹底的な比較に基づいたルポルタージュでない分、むしろ率直なワイン造りの裏側が垣間見える。ワインの出来が芳しくなければ、ラベルを剥がして、ハウスワインに横流す。またある年のこと、硫化物の混入が確かめられれば、タンクに戻し、濾過にかける。再びボトルに詰められたそれらワインは、思いの外、好評を博する。知りたいような、知りたくないような、そんな話がちらほら覗く。テキストの作りとしては、典型的なものづくり現場からのインサイド・リポート。自慢話や苦労話に終始するでもなく、それでいて物語として構築され、きれいごとを押し付けるばかりでなく、ワイン・ビジネスを実は的確にとらえたテキスト。